このプロポーズがスゴイ

長谷川町蔵×「憧れのウェディング・ベル」

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  • ライター&コラムニスト。米国のコメディ映画の現在を語った新刊「21世紀アメリカの喜劇人」がスペースシャワーブックスより発売中。他の著書に「聴くシネマ×観るロック」(シンコーミュージック・エンタテイメント)、「文化系のためのヒップホップ入門」(大和田俊之との共著、アルテス・パブリッシング)。「ハイスクールU.S.A.」(山崎まどかとの共著、国書刊行会)

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    (C) 2012 Universal Studios. All Rights Reserved.

    結婚を遠ざけるプロポーズのあり方がここに

     アメリカ西海岸の街サンフランシスコ。大晦日のパーティで運命的な出会いをした腕利き料理人トムと心理学専攻の大学院生バイオレットは、ちょうど1年後に婚約した。しかし、バイオレットに中西部のミシガン大学から採用通知が来たため、結婚は一時棚上げに。バイオレットのキャリアを優先してトムは一緒にミシガンに移り住むものの、研究に励み実績を積み重ねていく彼女とは対照的に、自分のスキルを活かせる職場が見つからず腐っていく。そしてそれはふたりの関係にまで影響を及ぼしてしまうのだった…。
     これまで『寝取られ男のラブバカンス』や『ガリバー旅行記』、『ザ・マペッツ』といった作品をヒットさせてきたニコラス・ストーラー(監督、脚本)とジェイソン・シーゲル(主演、脚本)のコンビが作ったロマンティック・コメディ『憧れのウェディング・ベル』は、アメリカの結婚式事情を理解する上で最重要資料となる映画だ。アメリカのカップルは婚約すると、新婦とその友人が中心となって工夫を凝らした結婚式のプランを一年近くかけて練り上げる。そして式の前日に豪華な晩餐会を開き、ゲストは泊まりこみで翌日の式へとなだれ込む。日本でも大ヒットした『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』は、この晩餐会と結婚式の間に騒動に巻き込まれる出席者たちを描いたコメディだ。でも本作の場合、主人公のふたりは結婚式になかなか辿り着かない。日本では考えられない距離の引っ越しや親族の死など、予期せぬ出来事が次々と重なり結婚自体が仕切り直しになるため、プロポーズを3度も行う羽目になるのだ。
     最初のプロポーズが行われるのは映画冒頭。トムはバイオレットに内緒で、勤め先のレストランの屋上に特別なテーブルを用意し、新年の花火をバックにロマンチックなプロポーズを計画する。しかし当日、不審な行動をバイオレットに追求され、レストランに向かう車中で告白してしまう。バイオレットはとりあえずイエスと答えるものの、自分の就活の方が気になっていて実際には心の準備が出来ていない。そもそもプロポーズされる可能性を想像出来たなら、交際1周年の記念すべき日に何か言いたそうにソワソワしているトム問いつめたりはしないからだ。案の定、プロポーズから程なくして彼女の就職が決まったため、仕事が落ち着くまで式は延期になってしまう。
     2回目のプロポーズは映画のちょうど折り返し点。今度はバイオレットから行われる。彼女は、自分を追い抜かすようにデキ婚をした姉のスージーがどんどんハッピーになっていることに焦るあまり、トムの勤務先に押し掛けて自分からプロポーズをする。でも今度はトムの心の準備が出来ていなかった。料理人としてのプライドを失った彼は、自分に彼女と結婚する資格がないと考え始めていたからだ。無理矢理急いで行おうとした結婚式は案の定、ご破算になってしまう。
     最後のプロポーズが行われるのは、それぞれ別の恋人との交際を経たふたりが元サヤに収まったラスト近くのことだ。トムが最初のプロポーズを行った場所でバイオレットが会話を切り出す。「結婚する前にすべてを解決することは出来ない。結婚後も問題は出てくる。でもどんな時もあなたを愛するわ。結婚してくれる?」。今回はトムも心の準備は出来ていた…ていうか、この直後にプロポーズを行おうとしていたことが、彼がルビーのリングを隠し持っていたことで明かされるのだ。そこから先、映画は考えられる限り最高の結婚式へと超特急で向かっていく。
     いくら素晴らしいサプライズを計画していても、相手の心の準備が出来ていないとプロポーズは上手くいかない。ふたりの心の準備が出来たなら、その瞬間を逃さずになるべく早く実行すべきだ。心の準備とは自分の抱える問題を解決することではない。それぞれの問題をふたりで分かちあえるほど相手を信頼できているかどうかということだ。誤って自分の問題が解決されているかどうかを判断基準にしたせいで、結婚まで5年もかかってしまった本作の主人公たちは、そんな当たり前の事実を教えてくれる。

  • 「憧れのウェディング・ベル」商品情報

    商品名:『憧れのウェディング・ベル』

    発売日:2013年6月5日発売

    価格:ブルーレイ¥1,980 / DVD ¥1,500

    発売元:ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント

    (C) 2012 Universal Studios. All Rights Reserved.

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